アメリカの障害者対策は、差別禁止を基本とし、合理的配慮の提供を重視する点が特徴です。主な法律として、1990年に制定された障害を持つアメリカ人法(ADA:Americans with Disabilities Act)が挙げられます。
ADAの主な内容
ADAは、雇用、公共サービス、公共施設、交通機関、通信など、幅広い分野における障害者差別を禁止しています。具体的には以下の内容を定めています。
- 雇用における差別禁止(Title I): 障害を理由とした採用拒否や不当な賃金設定などを禁じ、障害者がその能力を発揮できるよう合理的配慮を提供することを義務付けています。
- 公共サービスにおける差別禁止(Title II): 州や地方自治体などの公共機関は、障害のある人がサービス、プログラム、活動に平等に参加できるよう合理的配慮を提供しなければなりません。
- 公共施設における差別禁止(Title III): レストラン、ホテル、小売店などの民間事業者は、障害のある人が施設を利用しやすいよう、物理的なバリアを取り除くことなどを義務付けています。
- 交通機関における差別禁止(Title IV): バス、電車などの公共交通機関は、障害のある人が利用しやすいように整備することが求められます。
- 通信における差別禁止(Title V): 電話リレーサービスなど、聴覚や発話に障害のある人がコミュニケーションをとるためのサービス提供を義務付けています。
合理的配慮(Reasonable Accommodation)
ADAの中核となる概念の一つが「合理的配慮」です。これは、「障害者がその障害ゆえに職務遂行上抱える様々な障壁を解消するための措置」と定義され、個々の状況に合わせて柔軟な対応が求められます。例えば、職場の設備改善、勤務時間の調整、コミュニケーション手段の保障などが含まれます。
その他の関連法規・施策
ADA以外にも、アメリカには障害者に関わる様々な法律や施策が存在します。Rehabilitation Act
- 障害者教育法(IDEA:Individuals with Disabilities Education Act): 障害のある子どもの教育に関する権利を保障し、個別の教育プログラム(IEP)の作成などを義務付けています。
- リハビリテーション法(Rehabilitation Act): 連邦政府が資金援助するプログラムにおける障害者差別を禁止しています。特に第504条は、教育や雇用における差別禁止の根拠となっています。
- 公正住宅法(Fair Housing Act): 住宅の売買や賃貸における障害を理由とする差別を禁止しています。
- 全国有権者登録法(National Voter Registration Act): 障害のある人が投票しやすいよう、登録手続きの簡素化などを義務付けています。
- 障害年金、医療保障(メディケア、メディケイド): 障害のある人の生活を経済的に支えるための社会保障制度も整備されています。
特徴と課題
アメリカの障害者対策の特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 差別禁止の徹底: ADAをはじめとする法律により、広範な分野で障害者差別が明確に禁止されています。
- 合理的配慮の重視: 個々のニーズに合わせた柔軟な対応を通じて、障害者の社会参加を促進しようとしています。
- 雇用義務の考え方が相対的に弱い: 日本のような法定雇用率制度はなく、障害者も自身の特性やスキルを活かせる企業で就職を目指すことが一般的です。
- 州ごとの多様性: 就労支援などの具体的な制度は、連邦政府の枠組みの下、州や自治体によって多様な取り組みが行われています。
一方で、課題も存在します。
- 合理的配慮の範囲や程度: 具体的にどのような配慮が「合理的」であるかの判断は難しい場合があり、紛争が生じることもあります。
- 就労支援の地域差: 州や地域によって支援体制にばらつきがあり、十分な支援を受けられない障害者もいます。
- 社会参加の促進: 差別禁止が進んでいる一方で、障害者の社会参加が十分に実現しているとは言えない現状もあります。
アメリカの障害者対策は、ADAを中心に差別を禁止し、合理的配慮を提供することで、障害者の社会参加を促進しようとするものです。日本とは異なるアプローチも見られますが、障害者の権利擁護と平等な機会の保障を目指すという基本的な考え方は共通しています。
リハビリテーション法
リハビリテーション法(Rehabilitation Act)は、障害者を支援するために重要な法律であり、特に雇用や教育における差別を禁止し、障害者の権利を保護するための枠組みを提供しています。この法律は、連邦政府のプログラムや資金援助を受ける活動において、障害者に対する差別を禁止しています。
リハビリテーション法の主要な条項
- 第501条: 連邦政府の職員雇用において、障害者に対する差別を禁止し、積極的な差別是正措置を求めています。これにより、障害者が平等に雇用される機会を得ることができます。
- 第503条: 連邦政府と契約を結ぶ請負業者に対して、障害者の雇用に関する差別を禁止し、積極的な差別是正措置を求めています。これにより、障害者が雇用される機会が増加します。
- 第504条: 連邦政府の資金援助を受けるプログラムや活動において、障害者に対する差別を禁止しています。この条項は、教育機関や公共サービスにおける障害者の権利を保護するために重要です。
支援の具体的な内容
- 職業リハビリテーション: リハビリテーション法は、障害者が職業訓練や就労支援を受けるためのプログラムを提供しています。これにより、障害者が自立した生活を送るためのスキルを身につけることができます。
- 合理的配慮: 雇用者は、障害者が職務を遂行できるように、必要な合理的配慮を提供する義務があります。これには、職場環境の調整や特別な設備の提供が含まれます。
- 苦情申し立ての手続き: 障害者が差別を受けた場合、リハビリテーション法に基づいて苦情を申し立てることができます。これにより、障害者の権利が侵害された場合に適切な救済措置を求めることが可能です。
リハビリテーション法は、障害者の雇用機会を拡大し、教育や公共サービスにおける平等を促進するための重要な法律です。これにより、障害者が社会に参加し、自立した生活を送るための支援が提供されています。
ADA(障害を持つアメリカ人法)が施行された1990年以降、アメリカにおけるバリアフリー環境は大きく変化しました。この法律は、障害者に対する差別を禁止し、彼らが社会に参加できるようにするための重要な枠組みを提供しています。
バリアフリー環境の変化
- 公共施設のアクセシビリティ向上: ADAの施行により、公共施設や商業施設は、障害者が利用しやすいように設計されることが義務付けられました。これには、エレベーター、スロープ、広い通路、点字ブロック、多目的トイレなどの設置が含まれます。
- 交通機関の改善: 公共交通機関もADAの基準に従って改良され、バリアフリー化が進みました。これにより、障害者が公共交通を利用しやすくなり、移動の自由度が増しました。
- 雇用機会の拡大: ADAは雇用における差別を禁止し、障害者が職場で必要な合理的配慮を受ける権利を保障しています。これにより、障害者の雇用率が向上し、職場環境が改善されました。
- 社会的意識の変化: ADAの施行は、障害者に対する社会的な理解と受容を促進しました。バリアフリーの概念が広まり、障害者が社会の一員として参加することの重要性が認識されるようになりました。
- 法的枠組みの強化: ADAに基づく法律や規制が整備され、障害者が権利を主張するための法的手段が提供されました。これにより、障害者が差別を受けた場合に訴えることができる環境が整いました。
ADA施行後、アメリカのバリアフリー環境は、公共施設や交通機関のアクセシビリティ向上、雇用機会の拡大、社会的意識の変化など、多方面で改善されました。これにより、障害者がより自由に社会参加できる環境が整備されつつあります。