多様性を尊重する社会へ:障害当事者を指す言葉のガイド

障害者を指す言葉は、世界各国で文化や歴史的背景、社会的な価値観に影響を受けています。ここでは、いくつかの国や地域で使われている呼び方とその背景を紹介します。
アメリカ
アメリカでは、「People with disabilities(障害のある人々)」という表現が最も一般的です。これは人を第一に考える言語(People-first language)の原則に従っており、障害を個人の一部として捉え、尊重することを強調しています。
「Disabled people」も使われますが、やや積極的に障害のある状態を指摘するニュアンスがあります。また、特に自閉症やADHDを持つ人々に対して「Neurodivergent(神経発達の異なる人々)」という表現も使われることがあります。
アメリカでは障害当事者の権利運動が進んできた歴史があり、言葉の選択にも社会的な配慮が反映されています。「障害」という概念は医療的な視点ではなく、社会的な障壁に焦点を当てるようになっています。
イギリス
イギリスでは「Disabled people(障害のある人々)」という表現が一般的で、積極的に障害がその人の一部であることを認める意味合いがあります。「People with disabilities」も使われ、より中立的で配慮された表現とされています。
「People with impairments(障害を持つ人々)」という表現も使われることがありますが、医療的なニュアンスが強いことから、やや古い言い回しとされることもあります。
イギリスでは障害当事者団体や活動家の声を反映して、社会モデルの障害観(障害は個人の問題ではなく、社会の障壁によって生じるという考え方)が広まり、言葉もそれを反映しています。
フランス
フランス語で「障害当事者」は「handicapé(e)」が使われますが、近年は「personnes handicapées(障害のある人々)」や「personnes en situation de handicap(障害の状況にある人々)」という表現が好まれるようになっています。「Personnes avec un handicap(障害を持つ人々)」も一般的です。
フランスでは障害当事者の権利向上運動が進んでおり、障害当事者が直面する社会的障壁に焦点を当てた言葉が使われるようになっています。
ドイツ
ドイツでは「Menschen mit Behinderungen(障害のある人々)」という表現が使われ、比較的中立的で尊重を示す言い方です。「Behinderte Menschen(障害者)」も使われますが、障害当事者自身の権利を強調する方向で言葉選びが進んでおり、「Menschen mit Behinderungen」が好まれます。
ドイツでは障害当事者の社会的な権利と障壁の解消に重点を置く社会モデルが普及しており、その影響で言葉の選び方も個人の尊厳を保つ方向に変化しています。
カナダ
カナダでは、人を第一に考える言語が強調され、障害を持つ人々を尊重する表現として「people with disabilities」が広く使われています。「Disabled people」も使用されますが、社会的な障壁を強調する言葉として選ばれることが多いです。
カナダは非常に多文化な社会であり、障害当事者の権利保護やアクセス改善のための政策が進んでいます。言葉選びはこれらの社会的な価値観に影響されています。
オーストラリア
オーストラリアでは、人を第一に考える言語が主流であり、「People with disabilities(障害を持つ人々)」という表現が使われます。「Disabled people」も使われますが、ポジティブな意図で使われることが多いです。
オーストラリアでは障害当事者の社会参加とインクルージョンを進めるために、言葉に対しても敏感であり、障害当事者の意見を尊重する姿勢が求められています。
日本
日本では「障害者」という表現が一般的です。障害を持つ人々や障害を抱える人々という表現も使われます。「障害のある人」や「支援が必要な人」という言い回しも一般的です。
日本では障害に関する理解が進んでいる一方で、依然として「障害者」という言葉に対する違和感を感じる人もいます。最近では、より積極的な障害当事者の自己表現を重視する傾向が強まりつつあります。
ブラジル
ブラジルでは、「pessoas com deficiência(障害を持つ人々)」という表現が広く使用されています。「Deficientes(障害者)」も使われることがありますが、最近ではこの表現を避け、より尊重を示す言葉が使用されています。
ブラジルでは、障害当事者の権利を保障するための法律が整備されており、障害当事者の社会的包摂が進められています。そのため、言葉選びにも配慮が求められるようになっています。
まとめ
世界中で障害当事者を指す言葉は進化しており、障害当事者自身の尊厳や社会的包摂を考慮する方向で言葉が選ばれています。国や文化によって微妙に異なるため、その土地の障害当事者団体の意見や文化的背景を尊重することが大切です。
言葉は人々の意識や文化を反映するため、適切な言葉を選ぶことで、より包括的で尊重に満ちた社会を目指す意識が強くあります。例えば障害当事者を指す際に「disabled people(障害のある人々)」と「people with disabilities(障害を持つ人々)」はどちらも広く使われていますが、後者の方が中立的で配慮があるとされることが多いです。
障害当事者自身の意見や好み、コミュニティの文化的な背景も考慮に入れることが大切です。社会的な受容や尊厳を保つためには、相手がどのように自分自身を表現したいかを尊重することが重要です。
言葉の選び方は、障害当事者の尊厳を尊重し、偏見や差別を避けるためのものです。適切な言葉を選ぶことで、より包括的で尊重に満ちた社会を目指すことができるのです。