戦前から戦後へ:日本の障害当事者支援の歩みと法的進展

戦前の日本における障害当事者に対する公的な施策は、現代に比べて非常に限定的で、支援の概念がほとんど確立されていない状況でした。ここでは、戦前から戦後にかけての障害当事者支援の流れを振り返りつつ、わかりやすくまとめてみましょう。
戦前の支援状況
慈善事業や施設の設立:
- 戦前は、民間の慈善事業として障害当事者支援を目的とした施設が増え始めました。視覚障害者や聴覚障害者向けの教育施設が設立されましたが、多くは国の直接的な支援ではなく、民間や宗教団体が運営するものでした。
- 軍事、戦傷者への支援:
- 戦時中、戦争で負傷した軍人を支援するための施策が進められましたが、民間の障害当事者に対する施策はほとんどありませんでした。戦傷者向けのリハビリ施設や年金などが提供され、戦後、一般の障害当事者支援にも影響を与えました。
- 労働関連法制:
- 労働者の権利保護や労働災害の防止が課題とされましたが、障害当事者の就労支援や雇用促進についての法的支援は乏しかったです。
- 法制度の不備:
- 当時は、障害当事者に対する包括的な法律がなく、教育・福祉・雇用といった分野での支援策はほぼ存在しませんでした。障害当事者は支援の対象ではなく、社会的に「保護」される対象としてみなされることが多く、隔離や隔絶の傾向が強かったです。
戦後の変化と支援の充実
戦後、1950年代以降になると、障害者福祉法や労働関連法規が整備され、現代の支援体制が構築されていくきっかけが作られました。
視覚障害者向け教育施設:
盲学校:戦後、日本では視覚障害者を対象とした教育機関として、盲学校が各地に設立されました。これらの学校では、点字や音声教材を使った教育が行われました。特に、戦後の復興期に、視覚障害者の教育の普及が進み、全国で盲学校が増加しました。
代表的な学校:
東京盲学校(現在の東京視覚障害者総合支援学校):戦後も存在しており、視覚障害者向けの教育に加えて、職業訓練や生活支援のプログラムが強化されました。
大阪盲学校: 戦後に新たに再編され、視覚障害者向けの教育の場として重要な役割を果たしました。
盲人福祉施設の設立:戦後、視覚障害者が生活するための福祉施設も増えました。これらの施設では、教育に加えて、職業訓練や生活支援が行われ、視覚障害者の自立を支援する重要な役割を果たしました。
聴覚障害者向け教育施設:
聾学校(ろうがっこう):聴覚障害者に対する教育は、聴覚障害者専門の学校で行われました。戦後、日本でも手話や口話(口で話す方法)を使った教育が進められ、特に手話教育の重要性が認識されるようになりました。
代表的な学校:
東京聾学校(現在の東京聴覚支援学校):戦後の日本において、聴覚障害者の教育の中で重要な学校の一つとして位置付けられました。音声訓練や手話教育を取り入れた教育が行われました。
大阪聾学校(現在の大阪府立聴覚支援学校):聴覚障害者向けの専門的な教育を提供する施設として設立され、後に他地域にも同様の施設が設立されました。
聴覚障害者のための職業訓練施設:聴覚障害者向けの職業訓練施設も、戦後に増えていきました。これらの施設では、聴覚障害者が自立して社会で活躍できるように、職業技能の習得を支援しました。特に、音声によるコミュニケーションが難しい聴覚障害者に対して、手話やビジュアルな方法での教育が行われました。
法的保障と支援の強化
1950年代以降、日本では障害当事者の福祉や労働に関する法整備が進み、障害当事者の権利や福祉が徐々に認められるようになりました。以下はその主要な法規です。
- 障害者福祉法(1949年):
- 障害者福祉法は、戦後の1949年に制定され、障害当事者の福祉に関する法的な枠組みを提供した日本初の重要な法律です。この法律は、障害当事者の社会参加を促進し、福祉支援を強化するための基盤を作りました。
- 身体障害者福祉法(1960年):
- 身体障害者福祉法は、特に身体的な障害を持つ人々に焦点を当てた法律で、1960年に施行されました。この法律は、障害当事者の生活環境の向上や社会参加を支援するための具体的な制度を規定しました。
- 精神障害者福祉法(1963年):
- 精神障害者福祉法は、精神障害当事者に対する福祉支援を規定した法律です。精神障害当事者に対する社会的偏見が強かった時期に制定され、精神障害当事者の支援を体系化しました。
- 障害者雇用促進法(1960年):
- 障害当事者の雇用に関する法律も進展し、1960年に制定された障害者雇用促進法は、障害当事者の職業的な自立を支援するための枠組みを作りました。この法律は企業に対して障害当事者を積極的に雇用するよう促すもので、障害当事者の就労機会を増やすことを目指しています。
- 障害者基本法(1993年):
- 1993年には、障害当事者福祉の基本法として障害者基本法が制定され、障害当事者の権利を保障する法的枠組みがより強化されました。この法律は、障害当事者の社会的地位向上と完全な社会参加を目指しています。
- 障害者差別解消法(2016年):
- 障害当事者の権利をさらに強化するために、障害者差別解消法が2016年に施行されました。この法律は、障害当事者に対する差別の解消を目的とし、公共施設や企業での障害当事者差別をなくすための指針を示しました。
まとめ
1950年代以降、障害当事者に対する法的保障は次第に強化され、福祉や労働の分野で支援が進みました。これらの法律は、障害当事者が社会で自立し、平等に生活できるための重要な礎となり、今日の障害当事者福祉政策の基盤を築いたものです。