ダウン症の呼び方って発見者の名前から来てるんですか?

ダウン症の呼び方は、イギリスの医師ジョン・ラングドン・ダウン(John Langdon Down)に由来しています。彼は1866年にこの症候群を初めて学術的に記述し、その特徴をまとめました。当初は「蒙古症」と呼ばれていましたが、この名称は人種差別的な意味合いがあるとされ、現在では「ダウン症候群」または「ダウン症」と呼ばれるようになりました。

ダウン症は、21番目の染色体が通常の2本ではなく3本存在することによって引き起こされる遺伝的な状態であり、これを「21トリソミー」とも呼びます。ダウン博士の名前を冠した呼称は、彼がこの症状を初めて体系的に報告したことに由来しています。

このように、ダウン症という名称は発見者の名前から来ていることが明確です。

ダウン症に対する社会的な偏見は、歴史的に大きな変化を遂げてきました。

過去の状況:

  • かつては「モンゴリズム」といった人種差別的な呼称が使われるなど、誤解や偏見が深く、社会からの孤立や差別が一般的でした。
  • ダウン症のある人々は、その能力や可能性が十分に認識されず、教育や社会参加の機会が限られていました。

現在の変化:

  • 理解の深化と啓発活動: 医療や遺伝学の進歩により、ダウン症が染色体異常によるものであるという科学的な理解が広まりました。また、世界ダウン症の日(3月21日)のような啓発活動を通じて、ダウン症のある人々の多様な個性や可能性、そして彼らが社会の一員として貢献できることが広く認識されるようになりました。
  • インクルーシブな社会の推進: 特別支援教育の充実や、地域社会での共生を目指す動きが活発になり、ダウン症のある人々が学校や地域でより多くの機会を得られるようになりました。芸術活動やスポーツへの参加も積極的に行われ、彼らの才能が発揮される場が増えています。
  • 支援体制の整備: 家族への相談支援、早期療育、成人期における生活支援など、ライフステージに応じた多様な支援が提供されるようになっています。
  • 出生前診断と倫理的な議論: 新型出生前診断の登場により、ダウン症の出生を回避しようとする風潮がある一方で、ダウン症のある人々の存在意義や、多様性を尊重する社会のあり方について、倫理的な議論も活発に行われています。

このように、ダウン症に対する社会的な見方は、かつての偏見や差別から、理解と共生へと大きく変化してきています。しかし、まだ課題も残されており、さらなる理解と支援の推進が求められています。

ダウン症の他にも、発見者や研究者の名前が付けられた病気や症候群は数多く存在します。特に、珍しい疾患や特定の症状の組み合わせが特徴的な疾患にその傾向が見られます。

いくつか例を挙げます。

  • ハンチントン病 (Huntington’s Disease): アメリカの医師ジョージ・ハンチントンが最初に医学的な報告を行ったことにちなんで名付けられました。遺伝性の神経変性疾患で、不随意運動、精神症状、認知症などが特徴です。
  • シェーグレン症候群 (Sjögren’s Syndrome): スウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが1933年に発表した論文にちなんで名付けられました。自己免疫疾患の一種で、涙腺や唾液腺が障害され、ドライアイや口腔乾燥などが起こります。
  • ベーチェット病 (Behçet’s Disease): トルコの皮膚科医フルシ・ベーチェットが初めて報告したことから名付けられました。口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状を主とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。
  • アルツハイマー病 (Alzheimer’s Disease): ドイツの精神科医・神経病理学者アロイス・アルツハイマーが最初に報告した認知症の一種です。
  • パーキンソン病 (Parkinson’s Disease): イギリスの医師ジェームズ・パーキンソンが1817年に「振戦麻痺に関するエッセイ」で報告したことから名付けられました。神経変性疾患で、振戦(ふるえ)、動作緩慢、姿勢反射障害などが特徴です。

これらはごく一部の例ですが、医学の歴史において、特定の疾患の発見や詳細な記述に貢献した人物の功績を称え、その名前が病名に冠されることがよくありました。

ハンチントン病とは

ハンチントン病は、遺伝性の進行性神経変性疾患で、脳の特定の部位(大脳基底核の一部である尾状核や被殻)の神経細胞が徐々に変性することで発症します。この病気は、アメリカの医師ジョージ・ハンチントンが最初に医学的な報告を行ったことにちなんで名付けられました。

主な症状

ハンチントン病の症状は多岐にわたり、進行とともに悪化します。主な症状は以下の3つに分けられます。

  1. 運動症状:
    • 不随意運動(舞踏運動): 最も特徴的な症状で、顔や手足が勝手に素早く不規則に動く「舞踏運動(コレア)」が見られます。初期には微妙な動きですが、進行すると全身に広がり、歩行が不安定になったり、転びやすくなったりします。
    • 巧緻運動障害: 箸を使う、字を書く、ボタンを留めるなどの細かい動作が難しくなります。
    • 嚥下障害・構音障害: 飲み込みにくくなったり(嚥下障害)、言葉がはっきり話せなくなったり(構音障害)します。
    • 若年で発症する「若年型ハンチントン病」では、舞踏運動よりも筋強剛(筋肉のこわばり)や動作緩慢などのパーキンソニズム症状が目立つことがあります。
  2. 精神症状:
    • 性格の変化: 怒りっぽくなる、無頓着になる、衝動的になるなど、性格の変化が見られます。
    • 感情障害: うつ症状、不安、易刺激性(ちょっとしたことでイライラする)などが現れます。
    • 強迫性障害: 同じ行動を繰り返すなどの強迫的な行動が見られることもあります。
  3. 認知症状:
    • 遂行機能障害: 計画を立てて実行する能力や、全体を把握する能力が障害されやすいです。
    • 記憶障害: 物忘れや記憶障害も起こりますが、他の認知症に比べて初期には目立たないことがあります。
    • 病気が進行すると、認知機能が全般的に低下し、日常生活に大きな支障をきたすようになります。

原因と遺伝

ハンチントン病は、第4染色体短腕に位置する「HTT遺伝子」の異常が原因で発症します。この遺伝子内の特定のDNA配列(CAGリピート配列)が異常に長く伸びることで、ハンチンチン(huntingtin)と呼ばれるタンパク質が異常な形になり、神経細胞にダメージを与えます。

この病気は常染色体優性遺伝という形式で遺伝します。これは、両親のどちらか一方から異常な遺伝子を1つ受け継ぐだけで発症することを意味します。そのため、ハンチントン病の患者さんの子どもがこの病気を発症する確率は50%です。CAGリピートの数が多いほど、発症年齢が若くなる傾向があります。

診断

診断は、症状や家族歴、神経学的診察に基づいて行われます。確定診断には、血液検査による遺伝子検査が用いられます。脳のCTやMRI検査では、脳の萎縮(特に尾状核の萎縮)が確認されることがあります。

治療

残念ながら、現在のところハンチントン病の進行を完全に止めたり、根本的に治したりする治療法はありません。治療は、主に症状を緩和するための対症療法が中心となります。

  • 薬物療法:
    • 不随意運動に対しては、テトラベナジンなどの薬剤が用いられます。
    • 精神症状(うつ、不安、易刺激性など)に対しては、抗精神病薬や抗うつ薬などが使用されます。
  • リハビリテーション: 運動機能の維持や嚥下障害の改善のために、理学療法、作業療法、言語療法などが行われます。
  • 脳深部刺激療法 (DBS): 舞踏運動が非常に強い場合に検討されることがあります。

ハンチントン病は進行性の病気であるため、患者さんとその家族への継続的なサポートが非常に重要となります。

ベーチェット病とは

ベーチェット病(Behçet’s disease)は、トルコの皮膚科医フルシ・ベーチェット(Hulusi Behçet)が1937年に初めて報告したことから名付けられた病気です。

この病気は、全身のさまざまな臓器に炎症を繰り返す慢性的な炎症性疾患です。特に、口、目、皮膚、外陰部に特徴的な症状が現れることが知られており、これらの症状が発作的に現れては治まり、また再発することを繰り返すのが特徴です。原因はまだ不明ですが、遺伝的素因に環境因子が関与していると考えられています。日本では厚生労働省の指定難病に認定されています。

「シルクロード病」とも呼ばれ、東アジアから地中海沿岸・中近東に至る地域に患者さんが多く見られます。

主な症状(4主症状)

ベーチェット病の診断において特に重要視されるのが、以下の4つの主症状です。

  1. 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)
    • ほぼすべての患者さん(98%)に現れる最も頻度の高い症状で、病気の最初の症状となることも多いです。
    • 唇、頬、舌、歯茎、口蓋などに、円形で境界がはっきりした、痛みを伴う潰瘍が繰り返しできます。
    • 一度治っても、また別の場所にできたり、同じ場所に再発したりします。
  2. 皮膚症状
    • 結節性紅斑様皮疹: 主に下腿(すね)などに、赤く痛みを伴うしこりができます。
    • 毛嚢炎様皮疹(座瘡様皮疹): ニキビに似た赤いブツブツが、顔、首、胸などにできます。
    • 血栓性静脈炎: 皮下の血管に炎症が起こり、しこりや痛みが生じることがあります。
    • 皮膚の被刺激性亢進(針反応陽性): わずかな刺激(注射針を刺すなど)で、その部位に炎症が起こり、赤い盛り上がりや膿疱ができることがあります。これを診断に利用する「針反応検査」も行われますが、近年では陽性率が低下していると言われています。
  3. 眼症状
    • 約25~75%の患者さんに現れ、重症化すると視力低下や失明に至る可能性もある重要な症状です。
    • ぶどう膜炎: 眼のぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)に炎症が起こります。
      • 虹彩毛様体炎: 眼の痛み、充血、光に過敏になる、かすみ目などの症状が出ます。前房蓄膿(ぜんぼうちくのう:眼の中に膿がたまる)を繰り返すのが特徴的です。
      • 網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎): 網膜や脈絡膜に炎症が及び、視力低下や飛蚊症(目の前に虫やゴミが飛んでいるように見える)などを引き起こします。視力予後に関わるため、特に注意が必要です。
    • 炎症を繰り返すことで、白内障や緑内障を合併することもあります。
  4. 外陰部潰瘍
    • 男性では陰嚢、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に、痛みを伴う潰瘍ができます。
    • 口腔内アフタ性潰瘍に似ていますが、深くえぐれることもあり、治った後に瘢痕(あと)が残ることがあります。

その他の症状(副症状・特殊病型)

上記4つの主症状以外にも、全身の様々な臓器に症状が現れることがあります。

  • 関節炎: 膝、足首、肘、肩などの大きな関節が痛み、腫れることがあります。関節の変形はほとんど起こりません。
  • 副睾丸炎(精巣上体炎): 男性にみられる症状で、睾丸の上が腫れて痛みが出ます。
  • 消化器病変(腸管型ベーチェット病): 小腸と大腸の境界部(回盲部)を中心に深い潰瘍ができ、腹痛、下痢、血便などの消化器症状を繰り返します。重症化すると、腸に穴が開いたり(穿孔)、狭くなったり(狭窄)することがあります。
  • 血管病変(血管型ベーチェット病): 動脈や静脈に炎症が起こり、血管が詰まったり(閉塞)、瘤ができたり(動脈瘤)することがあります。肺の血管が侵されると、肺塞栓などを引き起こすこともあり、重篤になる可能性があります。
  • 神経病変(神経型ベーチェット病): 脳や脊髄に炎症が起こり、頭痛、発熱、麻痺、言語障害、歩行障害、認知機能の低下、精神症状などが現れることがあります。急性型と慢性進行型があります。

診断

ベーチェット病の診断は、上記のような特徴的な症状の組み合わせと、他の病気を除外することで行われます。特定の単一の検査で診断できるものではありません。厚生労働省の診断基準では、4つの主症状の出現状況によって「完全型」「不全型」「疑い」に分類されます。また、腸管、血管、神経に病変がある場合は「特殊病型」とされます。

参考となる検査所見として、炎症反応(CRP、赤沈、白血球数など)の上昇や、遺伝子検査で特定のHLA(ヒト白血球型抗原)型(特にHLA-B51)が陽性であることなどがありますが、これらは必須ではありません。

治療

現在のところ、ベーチェット病を完全に治す治療法はありません。治療は、炎症を抑え、症状をコントロールし、臓器の障害や後遺症を防ぐことを目的とします。症状の重症度や病変部位に応じて、様々な薬剤が使い分けられます。

  • コルヒチン: 軽症の皮膚粘膜症状や関節炎に対して第一選択薬として用いられることがあります。炎症を抑える作用があります。
  • ステロイド: 炎症を強力に抑えるために用いられます。特に眼症状の悪化時や、血管・神経病変などの重篤な症状に対して使われます。点眼薬、内服薬、点滴など、症状に応じて投与経路が異なります。
  • 免疫抑制薬: ステロイドでコントロールが難しい場合や、ステロイドの減量を目指す場合、再発を予防する場合などに用いられます。シクロスポリン、アザチオプリンなどが代表的です。
  • 生物学的製剤: 近年、特に難治性の眼症状や腸管型、神経型、血管型ベーチェット病の治療に大きな効果を発揮しています。TNFα阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブなど)が使われます。
  • PDE4阻害薬: 口腔潰瘍に対してアプレミラストが使用されることがあります。

治療は長期にわたることが多く、症状の再発や進行を防ぐために継続的な治療が必要です。また、ストレスや疲労、感染症などが症状を悪化させることがあるため、体調管理や規則正しい生活も重要となります。

ベーチェット病は多彩な症状を示すため、多くの診療科(内科、眼科、皮膚科、消化器内科、脳神経内科など)の連携による専門的な治療が求められる病気です。

お役立ちコラム一覧へ戻る