AIスーツケースは視覚障碍者の移動支援として使えますか?

AIスーツケースは視覚障害者の移動支援として非常に有効なツールとして研究開発が進められています。

現在、日本科学未来館や次世代移動支援技術開発コンソーシアムなどが中心となって開発が進められており、大阪・関西万博でも実証実験が行われています。

AIスーツケースが視覚障害者の移動支援に役立つ主な点は以下の通りです。

  • 自律走行型ナビゲーション:
    • センサー(LiDARなど)で周囲の状況(障害物、人、段差など)を認識し、AIが安全なルートを計算して目的地まで誘導します。
    • スマートフォンアプリや音声で目的地を設定でき、複数の目的地を巡るツアーのような移動も可能です。
  • 安全性の確保:
    • 障害物や歩行者を検知し、自動で回避したり停止したりする機能があります。
    • 利用者がハンドルを握っている時だけ動き、手を離すと停止する安全設計がされています。
    • 清水建設が開発している「シミズ版AIスーツケース」では、力覚センサーによって使用者が手動で操作する際も衝突を自動的に防ぐ高度な安全機能も搭載されています。
  • 情報提供:
    • 進行方向や目の前の情報、注意点などを音声で案内してくれます。
    • 将来的には、周囲の店舗案内や買い物支援、知り合いの認識、行列に並ぶ支援など、より高度な機能も期待されています。
  • 利便性:
    • スーツケース型であるため、見た目が自然で都市環境に溶け込みやすいという利点があります。
    • ハンドルの高さ調整や利き手を選ばないデザインなど、利用者の使いやすさも考慮されています。
    • ある程度の段差も乗り越えられるような設計も進められています。

AIスーツケースは、白杖や盲導犬とは異なる、新たな移動支援の選択肢として、視覚障害者の行動範囲を広げ、より自立した移動を可能にすることを目指しています。

AIスーツケースは、主に以下の技術を組み合わせて障害物を認識します。

  • LiDAR(ライダー)センサー:
    • レーザー光を照射し、その反射時間から周囲の物体までの距離を測定するセンサーです。
    • 360度全方位をスキャンすることで、人や障害物の位置、形状、距離を詳細に把握できます。自動車の自動運転にも使われている技術です。
  • カメラ(画像認識AI):
    • カメラで撮影した映像をAIが解析し、歩行者やその動き、その他の障害物を認識します。
    • これにより、LiDARだけでは難しい物体の種類や状況を判断することが可能になります。
  • その他のセンサー:
    • ハンドルの下部にあるタッチセンサーは、利用者がハンドルを握っているかどうかを検知し、AIスーツケースの動作を制御します。
    • 清水建設が開発している「シミズ版AIスーツケース」では、力覚センサーも搭載されており、利用者のハンドルの握り方や強さ、方向を読み取ることで、手動操作時でも周囲の人や物への衝突を自動的に防ぐことができます。

これらのセンサーから得られた膨大な情報は、AI(人工知能)が搭載されたコンピューター(GPUなど)で高速に処理され、安全な移動ルートを計算し、障害物を回避するための判断を行っています。

簡単にまとめると、AIスーツケースは「目」(LiDARとカメラ)で周囲の状況を把握し、「脳」(AIとコンピューター)でその情報を分析して、安全な移動を支援していると言えます。

AIスーツケースが周囲の人を識別する主な方法は、カメラと画像認識AIの組み合わせです。

より具体的には、以下の技術が用いられています。

  • 画像認識AIによる人物検知・追跡:
    • 搭載されたカメラが捉えた映像をリアルタイムでAIが解析し、それが「人間」であるかどうかを識別します。
    • さらに、その人物がどちらの方向へ移動しているか、どのような行動をとっているか(立ち止まっている、歩いている、群れているなど)を追跡し、AIスーツケースの移動に影響を与える可能性のある動きを予測します。
  • LiDARセンサーによる人や障害物の位置・形状把握:
    • LiDARはレーザー光を使って周囲の物体の距離と形状を正確に計測するため、人物の存在を検知し、その位置を特定するのに役立ちます。
    • これにより、AIスーツケースは人との距離を適切に保ち、衝突を避けるための経路を計画できます。

一部のAIスーツケースでは、将来的には以下のような機能も検討されています。

  • 顔認識機能:
    • 登録された知人の顔を認識し、音声で知らせることで、視覚障害者が周囲の知人に気づき、円滑なコミュニケーションを支援する機能です。
  • 行動認識機能:
    • 映像やセンサーの情報から周囲の人の行動を認識し、「行列に並ぶ」などの社会的な行動を支援する機能も開発が進められています。

これらの技術を組み合わせることで、AIスーツケースは単に障害物を避けるだけでなく、周囲の「人」の存在や動きをより詳細に理解し、安全でスムーズな移動をサポートすることを目指しています。

AIスーツケースの実証実験は、主に以下の場所で行われています。

  • 日本科学未来館(東京):
    • 日本科学未来館では、2024年4月からAIスーツケースの定常的な試験運用を毎日行っており、一般の方も体験することができます。これは、より多くの実証データを蓄積し、ナビゲーション技術の向上を目指すものです。
  • 大阪・関西万博(2025年開催):
    • 2025年4月13日から10月13日まで開催される大阪・関西万博の会場内で、視覚障害者向けの自律型ナビゲーションロボットとしてAIスーツケースの実証実験が行われています。万博の来場者が実際に体験できるツアーも実施されています。
  • 屋外公共エリア(東京都内など):
    • 日本科学未来館周辺の屋外公共エリア(公園内の歩道や横断歩道など)でも、一般ユーザーによる実証実験が行われています。これは、実際の都市環境での運用に向けた検証を目的としています。

これらの場所での実証実験を通じて、AIスーツケースの技術的な課題の洗い出しや、実際の利用における使いやすさの検証が進められています。

視覚障害者以外の人々もAIスーツケースを利用することは可能です。

特に、日本科学未来館で行われている実証実験では、視覚に障害のある方だけでなく、健常者もAIスーツケースの体験ツアーに参加できます。これは、AIスーツケースのナビゲーション技術や使い勝手を広く検証し、より多様なニーズに対応できる可能性を探るためでもあります。

視覚障害者以外の利用シーンとしては、以下のような可能性が考えられます。

  • 初めて訪れる場所でのナビゲーション:
    • 駅や空港、大規模な商業施設、展示会場など、複雑な構造で迷いやすい場所で、目的地までスムーズに案内してくれるツールとして利用できます。
    • 特に、地図を読むのが苦手な人や、荷物が多くてスマートフォンを操作しにくい状況で役立つでしょう。
  • 手荷物の運搬支援:
    • 旅行などで重い荷物を持ち運ぶ際、スーツケースが自律走行することで、身体的な負担を軽減できます。
  • 特定の商品への誘導(スーパーなど):
    • スーパーマーケットなどで、特定の商品の場所まで誘導する「スマートカート」のような役割を果たす可能性も示唆されています。
  • 高齢者の移動支援:
    • 視覚だけでなく、歩行に不安のある高齢者の方にとって、安定した移動をサポートするツールとしても役立つかもしれません。
  • 観光案内:
    • 観光地で、見どころを巡るツアーガイドのように、AIスーツケースが場所の解説をしながら案内するような活用も考えられます。

ただし、現状のAIスーツケースは、事前に周囲の3D形状を測定し、AIが学習している場所でしか使えません。そのため、どこでもすぐに使えるわけではなく、利用できる場所は限られます。

しかし、開発者側は「視覚障害者が特別視されることなく、誰もが自然に使えるデザイン」を目指しており、将来的に多様な人が利用できるような汎用性の高いツールへと発展していく可能性があります。

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